免疫反応における好塩基球の役割の解明

免疫反応における好塩基球の役割の解明

 免疫システムを構築している『免疫細胞』には、T細胞・B細胞をはじめとするリンパ球や、マスト細胞、貪食細胞などの、様々な種類の免疫細胞が存在します。その中でも最も数の少ない細胞集団の一つとして『好塩基球』という顆粒球があります。

 この好塩基球は、130年以上前にPaul Ehrlichによって初めてその存在が報告されました。歴史的にはT細胞やB細胞よりも古くから知られていましたが、その数が極めて少ないことや、好塩基球を解析するための研究ツールがほとんどなかったこともあり、つい数年前まで生体内での役割・存在意義に関する研究は長い間立ち後れていました。

 こうした問題を打開すべく、当研究室では、好塩基球を解析するために必要な研究ツールを世界に先駆けて、独自に開発してきました。例えば、好塩基球を欠損させることのできる抗体や遺伝子改変マウス、好塩基球を染色、検出を容易にすることができる抗体や遺伝子改変マウスがあります。このような画期的なツールを用いることによって、好塩基球は数々の炎症反応において非常に重要な働きをしていることがようやくわかってきました。

さらに詳しく好塩基球の研究を知りたい方は、下のリンクをクリック!!

  1. 皮膚の慢性アレルギーの引き金に好塩基球が関わっていた!!
  2. アナフィラキシー・ショックにも好塩基球は関与している!?
  3. 好塩基球は寄生虫を撃退するのに重要だった!!

 

好塩基球は慢性アレルギー炎症を誘導する細胞だった!!

日本をはじめとする先進諸国では、アトピー性皮膚炎や喘息、花粉症に代表されるアレルギー性疾患が年々増加傾向にあります。花粉症のような即時型アレルギー反応に関してはその発症機序がかなり解明されていますが、アトピー性皮膚炎や喘息にみられるような慢性アレルギー炎症病態に関しては、いまなお未知の部分が数多く残されています。

 そこで私たちは、ヒトのアレルギー疾患を再現できるような動物モデルである、アレルゲン特異的なIgEを構成的に発現するトランスジェニックマウスを樹立しました(Int. Immunol.,1999)。

 このモデルマウスの解析から、IgEが即時型アレルギー反応だけではなく慢性アレルギー炎症の病態形成にも深く関わっているという新事実が明らかとなりました(J. Allergy Clin. Immunol., 2003)。この新発見は「IgEが即時型のアレルギー反応をひきおこす」「T細胞が遅延型免疫応答をひきおこす」という既成概念では説明できない、全く新しい慢性アレルギー炎症誘導機構が存在することを意味します。

 そこで、この新規のIgE依存的慢性アレルギー炎症 (IgE-CAI) がどのような細胞によってひきおこされるのかを解析した結果、驚くことに、アレルギー反応をひきおこす主役と考えられているマスト細胞(肥満細胞)やT細胞が存在しない変異マウスにおいても、IgE依存的慢性アレルギー炎症が観察されました。さらに、細胞移入実験などにより責任細胞を絞り込んでいくことで、ついに、好塩基球がIgE依存的慢性アレルギー炎症をひきこす主役であることをつきとめました(Immunity, 2005)(2005年8月24日付けの朝日新聞、毎日新聞、日経BPなどに記事が掲載されました)。

 これまで好塩基球の生体内における役割はまったくわかっていませんでしたが、本発見によって、好塩基球がマスト細胞とはちがったユニークな役割を担っていることがはじめて証明されました。

 また、好塩基球を除去する実験から、上記の慢性アレルギー炎症において、好塩基球はエフェクター細胞(実行部隊)ではなくイニシエーター細胞(指揮官)として機能していることが明らかとなりました(Blood, 2007)。現在、好塩基球がどのような分子を介して慢性アレルギー炎症をひきおこすのか、その分子機構の解明を進めており、好塩基球やその分泌物質を標的にした新規アレルギー治療法の可能性を追求しています。

好塩基球はアナフィラキシー・ショックにも関係していた!!

 アナフィラキシーは、食物、ハチ毒などのアレルゲンの曝露によって誘導される急性かつ激烈な全身性の即時型アレルギー反応であり、生命を脅かすような危険な状態 (アナフィラキシー・ショック) に陥ることがある恐ろしい病態です。

 これまで、マスト細胞と好塩基球がアナフィラキシーの誘導に重要な働きをしているとされてきましたが、私たちの最近の研究により、IgEが関与する全身性アナフィラキシーにおいてはマスト細胞が、IgGが関与する全身性アナフィラキシーにおいては好塩基球が重要であり、即時型アレルギー反応である全身性アナフィラキシーにおいて、好塩基球はマスト細胞とは明らかに異なる役割を果たしていることが判明しました(Immunity, 2008)(2008年 3月 14 日付けの毎日新聞などに掲載されました)。

外部寄生虫であるマダニに対する免疫に好塩基球が重要だった!!

 寄生虫感染は発展途上国で猛威を振るっているイメージがあるかもしれませんが、実は今日の日本においても大変危険な寄生虫が身近に存在します。その一つが犬や猫を飼っている方にはおなじみの、『マダニ』という体外で寄生する虫です。

 普段マダニは森や藪の中に潜んでいますが、吸血可能な動物がやってくると、その動物の体表に寄生して吸血を始めます。一度吸血を始めると皮膚に1-2週間寄生し続け、マダニがお腹いっぱい(飽血)になるまで離れることはありません。マダニはあらゆる動物に寄生するため、その体内には病原体を保有していることも多く、現在では吸血によってライム病・日本紅斑熱などの感染症を媒介する危険な寄生虫として知られています。

 興味深いことに、マウスやモルモットではこのマダニに対しても免疫ができることが知られています。つまり、マダニに感染されたことのある動物では、免疫によって吸血が阻害されるので、マダニの吸血量が減少します。しかし、どういったメカニズムでマダニに対する免疫が獲得できるのかは全く分かっていませんでした。

 近年我々は、マダニが感染しているマウスの皮膚を観察したところ、マダニの吸血している局所に大量の好塩基球が浸潤していることを発見しました。さらに、マダニに対する免疫を獲得しているマウスから好塩基球を除去し、そこへ新たにマダニを感染させたところ、免疫のないマウスと同じくらいにマダニの吸血量が増えており、マダニに対する抵抗性がなくなっていることがわかりました。以上の事から、好塩基球がマダニに対する免疫の獲得に必須であることがわかりました(J. Clin. Invest. 2010)。

 現在、好塩基球が寄生虫感染に対してどういった働きをしているのかを研究しています。